湧亀記

2ストライク(1ファール)法務博士(専門職)のただの日記

現行刑法は、共謀を処罰するとしているのか

第1、 序論

 ある寒い朝の日の事である。法務博士(専門職)であり、ビジネス実務法務エキスパート(商工会議所認定)であり、無職の独身男性である亀が浜がおもむろにテレビを付け、ニュースを見ていた。

 気になったのは、共謀罪の是非についての議論を切り抜いた報道である。

第2、某野党議員の主張

 「確かな野党」とか「国民のための政治」とかを自称する野党議員側の主張である。

曰く、「共謀罪は新設しなくても現行刑法で対処可能である」「法定化すると権力による乱用のおそれがある」

 ほう。はたしてそうか。

 亀が浜は、法科大学院では、派遣検察官のゼミに所属し、組織犯罪と法についての講義を受けており、興味深いテーマである。 

第3、検討

1 現行刑法で対処可能であるか

 まず、共謀罪とは、簡単にいえば、殺人とか窃盗といった犯罪の実行行為(実際に行うこと)を担当しない黒幕的存在を処罰対象にするものである。暴力団の組長が、鉄砲玉に対象を殺害させるイメージで良い。

 しかし、日本の刑法においては、「共謀を処罰する」といった規定はない。それでは、犯罪の黒幕的存在を処罰することができないのかというと、そうではない。

 「共謀共同正犯」として、共同正犯、すなわち共犯として処罰されるのである。

(共同正犯)
第六〇条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
 

 お気づきかと思うが、「共謀」のきの字も規定されていない。
 したがって、現行刑法の運用では、この60条を根拠に共謀共同正犯を共同正犯に含めている。

 もちろん、明文にないこと、共謀自体を処罰することについて憲法違反を主張する立場もあったものの、現在では合憲とするのが当たり前となっているようである。
 もっとも、その認定には要件を絞り、無限定に処罰しないようにされている(本稿では略)。
  一応は、現行刑法でも対処はできるといえばできることになる。
 
2 法定化による乱用のおそれがあるか
 しかし、対処ができるといえども、上述の「実行した者は」とする規定を法解釈した上での運用である。
 つまり、裁判所の同条の解釈適用次第では適用範囲を広げることも狭めることも可能であるということである。
 そもそも、刑法は犯罪をカテゴライズし禁止行為を示すことで、法益を保護するための警告機能を果たす一方で、該当しない行為なら自由であるという自由保障機能もある。解釈に委ねられてきた共謀の処罰を明文化することは、自由保障にもつながる面を必ずしも否定できない。
 もともと規定にない概念を解釈で乗り切っている現行刑法の運用に対して、「法定化することで乱用が生じる」といった単純化した論理付けは誤解を招きかねないと思う。
 もちろん、明文化の段階でよく吟味されなければ不当に処罰対象が増えて権力の乱用的事態が生じることはもっともである。
 
3 政治の難しさと違和感
 実をいうと、ここまでの議論は、少し刑法をかじった人間なら思いつく程度の議論のはずで、議員先生が知らないはずはない(でも法学部出身で芦部先生を知らない人が大臣やってんだよな)。
 しかし、刑法は義務教育の必修科目ではない以上、国民全員には知識があるわけではない。
 支持者層にわかりやすいメッセージを伝えることは政治家にとって必要であろうが、誤解を招く議論の仕方をする事には違和感がある。
「国民のための政治」を掲げるならば、政治的意図は抜きにして素直な論理で議論を望みたいと考える。
 議論の全てを聞いていたわけではないから、私が真意を掴みきれていない可能性も否定できないが。
 もちろん、有権者としてもニュースソースがメディアの切り抜きであることを自覚しなければならない所でもある。
 などといったことを、湯たんぽの湯が湧く間に書き留めておく。
 
以上