湧亀記

2ストライク(1ファール)法務博士(専門職)のただの日記

高校生にもわかる、ヘイトスピーチとポリコレ

ふざけた日記しか書いていないので、たまには真面目に。

憲法の勉強会で話題になったので、備忘録を兼ねて、高校生にもわかるように、整理してみよう。

寝る前でやる気もないので、表現の不正確性などは目をつぶってもらえると嬉しい(問題があれば修正する)

どちらも、手元の憲法の基本書に記載のない新語なので、Wikipediaをみてみる。

 

ポリティカル・コレクトネス: political correctness、略称:PC)とは、政治的・社会的に公正・公平・中立的で、なおかつ差別偏見が含まれていない言葉や用語のことで、職業性別文化人種民族宗教ハンディキャップ年齢婚姻状況などに基づく差別・偏見を防ぐ目的の表現を指す。

ヘイトスピーチ: hate speech)とは人種、出身国、思想宗教性的指向性別障害などに基づいて個人または集団攻撃脅迫侮辱する発言や言動のこと

(2016年11月16日のWikipediaより)

 

 

第1 表現の自由の保障性

 そもそも、憲法21条1項は「一切の表現の自由」を国民に保障している。

 したがって、意見や情報を他人に伝達するという表現行為は、本来的には制約なく自由に行うことができる。

 表現の自由は、国民自身の人格形成のために重要という自己実現の価値、自己の意見を議会制民主主義に提供して政治的意思決定に参加する自己統治の価値があって、精神的自由として重要な価値があるとされる。

 したがって、この自己実現の価値や自己統治の価値がない表現(営利的な広告や、壁に書いてあるうんこの落書きとかを想像してほしい)は表現の自由が認められないと考えることができる。しかし、他方では、表現であればひとまず全て憲法上保障されると考えることもできる。

 では、HSのような差別的言論がどちらにあたるのか。

 これは悩ましい。

 ポリコレを意識するべきであるという考えの人は、HSのような差別的言論には表現の自由の保障を及ぼすべきではないと考えることになるだろう。

 一方で、言論には言論で対抗すべきという考え方もあり(「対抗言論の原則」)、HSのような差別的言論でも憲法上保障が及ぶと考えることももちろん可能である。

 

 司法試験答案的には、前者では表現の自由の保障がないとしてしまうと、論述することがなくなるから後者の立場にたつことになるだろうか(通説的見解も後者だったはず)。以下、後者の立場で論じてみることにする。

 

第2 自由の制約

 HSを規制する法律や、公権力による処分が行われたときに、日本国憲法で保障される表現の自由(21条1項)を制約することが起きる可能性がある。

 最近できた「本 邦 外 出 身 者 に 対 す る 不 当 な 差 別 的 言 動 の 解 消 に 向 け た 取 組 の 推 進 に 関 す る 法 律(ヘイトスピーチ対策法)」をみてみよう。(参考:法務省HP http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html

 「 本 邦 外 出 身 者 に 対 す る 不 当 な 差 別 的 言 動 」 と は 、 専 ら 本 邦 の 域 外 に あ る 国 若 し く は 地 域 の 出 身 で あ る 者 又 は そ の 子 孫 で あ っ て 適 法 に 居 住 す る も の ( 以 下 こ の 条 に お い て 「 本 邦 外 出 身 者 」 と い う 。 ) に 対 す る 差 別 的 意 識 を 助 長 し 又 は 誘 発 す る 目 的 で 公 然 と そ の 生 命 、 身 体 、 自 由 、 名 誉 若 し く は 財 産 に 危 害 を 加 え る 旨 を 告 知 し 又 は 本 邦 外 出 身 者 を 著 し く 侮 蔑 す る な ど 、 本 邦 の 域 外 に あ る 国 又 は 地 域 の 出 身 で あ る こ と を 理 由 と し て 、 本 邦 外 出 身 者 を 地 域 社 会 か ら 排 除 す る こ と を 煽 動 す る 不 当 な 差 別 的 言 動 を い う、とHSを定義する(同法2条)。

 この定義をみると、HS対策法は、HSを専ら日本における国籍差別を対象にしているのかな。

 全部で7条しかない短い法律の中で、その他の条文には、HSを直接的に禁止したりする規定はない。したがって、この対策法から、直ちに表現の自由を制約するとはいえないようである。

 仮に、「 本 邦 外 出 身 者 に 対 す る 不 当 な 差 別 的 言 動 」をした者は、禁錮◯◯年に処するといった法律が制定されたとき(X法としようか)、表現行為が刑罰によって萎縮させられることになるから、表現の自由が規制されることになる。

 

第3 規制の合憲性(違憲性)

 1 審査基準

 規制が憲法上許されるか(合憲か違憲か)を判断するには、違憲審査基準をきめて、評価することになる。違憲審査基準については本格的な憲法学の議論になるので説明を簡略化する。高校生が読んでたら、大学で憲法の勉強を頑張って欲しい(悪魔的勧誘)。

 司法試験的には、権利の重要性と制約の態様から評価して、違憲審査基準を決めることになる。そこで、HSを表明することが憲法上重要な権利といえるかどうかを説得的に論じられるかどうかが求められるのだろうな。

 ポリコレ推進的な人からしたら、差別的言論は価値が低い方向で論じることになるでしょう。ポリコレのような考え方に違和感があるような人は、他の表現の自由と同じ価値があると論じることもできるでしょう(勉強会の仲間にこの立場を強く主張する人もいました)。

 表現の自由ということで、HSであることを理由とすれば内容に着目した規制だとして極めて厳しい審査基準になるだろうし、HSを表明するという事実に着目すればいわゆる内容中立規制として、前者ほど厳しい審査基準にはならないことになる(詳細は略)。

 2 憲法上の評価

 どのような審査基準を設定しても、規制の目的は何かを設定して、規制の手段が目的達成としての手段として、ふさわしいかどうかという観点から判断になる。

 たとえば、HS対策法の目的は、1条に規定されている。

 こ の 法 律 は 、 本 邦 外 出 身 者 に 対 す る 不 当 な 差 別 的 言 動 の 解 消 が 喫 緊 の 課 題 で あ る こ と に 鑑 み 、 そ の 解 消 に 向 け た 取 組 に つ い て 、 基 本 理 念 を 定 め 、 及 び 国 等 の 責 務 を 明 ら か に す る と と も に 、 基 本 的 施 策 を 定 め 、 こ れ を 推 進 す る こ と を 目 的 と す る(HS対策法1条)

 

 仮に、X法がHS対策法に追加されるものであれば、HSを刑罰によって規制することが、この目的を達成するためにふさわしいかどうかを検討することになる。

 司法試験ならいろいろ事情を与えられることになるわけで、結構現場思考ができるかって感じですね...。

 

以上

ここまでつらつら書いてみたら、司法試験的憲法三段階審査論の紹介になってしまいました。

HSとかPCについてどう思うかとかの論述を期待していた人がいたら、期待に応えられなくて、謝謝!